El Diario Del Bufón Del Rey Lear

元リアの道化による独り言とか。

お父さん

いつだったか、父に「怖い物って何?」と聞いたことがある。テレビで中年男性の怖いものランキングをやっていた時だったと思う。父はランキングを見ながら「犯罪に遭うことかなあ……」と呟いた。死ぬことは怖くないけど、犯罪に遭ったら片腕がなくなってしまうかもしれない、お金が無くなってしまうかもしれない、と言った。思うに、それでも生きていかないといけない状況だったからだろう。専業主婦の母と娘3人が自分の肩に乗っていたのだから。

 

思えば父に対して反抗したことはない。いや、小さいのはあると思うんだけど、少なくとも覚えてはいない。父に怒鳴られたことが無いのは家族で私だけらしいと思えるほど短気な父だけどね。

そんな父に似て短歌と演劇が好きで目立ちたがり屋の私だけど、どうしても父を受け入れられない一面がある。それは嫌がっているのに愛嬌を振りまくことだ。お酒を飲むとその傾向が強まるのがいただけない。多分黙っていられない絡み酒なんだと思う。

結婚して良人の両親と私の両親を今の家に呼んで、6人で行きつけの焼鳥屋に飲みに行ったことがあるんだけどここで父が歌いだしてもう穴があったら入りたかったどころじゃなくて、スペイン流に言えば「大地よ私を呑み込め!」状態。義両親だけでなく常連客と女将さんまで彼は面白い人認定された。

 

目立ちたがり屋で趣味の俳句では先陣を切っているらしいし、営業で結構えらい地位にいるらしい彼だけど娘達の結婚式ではがちがちに緊張していた。姉の時はリハーサルがあったんだけど私の時はぶっつけ本番だったせいか、父が緊張しているところを私は生まれて初めて見た。

ちなみに父は喜怒哀楽がはっきりしている男で、母の兄や母の母が亡くなった時は血縁関係が無いのに母より泣いた。自分の両親の時はそれどころじゃなかったっていうのもあるんだろうけど。

 

父はADHDと思われる。失くした傘は両手で数えきれないらしいし、しょっちゅう駅に電話して定期やら鞄やらが無いか聞いていた。母と結婚した当初、当時は手渡しだった給料袋を落としたこともあるらしい。私は知らないけど多分携帯も落としてると思う。

食事をしていて湯呑やらグラスを倒すのは日常茶飯事。姉の結婚前、義兄一家と結納代わりの顔合わせ食事会でも開始早々紹興酒を倒してテーブルがびしょびしょになった。

今ネットで見たらADHDの特徴が大多数当てはまっているのでまあそうなんだろう。でもちゃんと孫まで見れたし大きく道を踏み外してもいないし、大丈夫なんじゃないかな。

 

母に比べて父の方が親近感はあるけど、感謝しているかというとそれは違う気もする。うまくいえないんだけど、軽佻浮薄なところがあるのでいろいろと傷つけられたきたしね。一つだけ言えるのは、父の奥さんにはなれないということだ。あの人の妻は母ぐらいじゃないと務まらない。割れ鍋に綴じ蓋って本当にあるんだなと思うよ。